〈 はじめに:「まさかうちの会社では…」と思っているうちが危ない 〉
深刻な人手不足が続く新潟県南魚沼市・湯沢町エリアでは、農業・宿泊・外食業を中心に「特定技能」による外国人材の受入れが年々広がっています。
旅館や民宿、スキーリゾート関連の飲食店、農業生産法人など、地域を支える多くの事業者が特定技能外国人の力を借りながら経営を回している状況です。
ところが、制度が普及するにつれて、冬季特有のトラブルが増え始めています。
ある日突然スタッフが姿を消す、あるいは手続きを踏まずに他県へ移ってしまう――こうした事態に直面した企業からの相談が、行政書士の現場でも少なくありません。
しかも問題は「人が抜けること」だけではありません。
トラブル発生後の行政手続きを一歩間違えると、会社側が「管理が不十分」と判断され、今後1年以上にわたって新たな特定技能外国人を受け入れることができなくなるというペナルティが待っています。
本記事では、特定技能制度の基本的な仕組みから、雪国で起きやすいトラブルの具体例、発生後の正しい対処法、そして予防策まで、できるだけわかりやすく解説します。
1. 「特定技能」の転職は自由――だから雪国は逃げられやすい
まず制度の基本を押さえておきましょう。
特定技能は2019年4月に創設された在留資格で、人手不足が深刻な16分野で外国人が就労できるようになる制度です。
以前の技能実習制度とは異なり、特定技能1号の外国人には「転職の自由」が認められています(同一業務区分内、または試験等により技能水準の共通性が確認された業務区分間への転職が可能)。
➡ 参考:出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」(Q13)
これは労働者の権利保護という面では重要な仕組みですが、採用した側の事業者にとっては「いつでも転職できる」という大きなリスクを抱えることでもあります。
加えて、出入国在留管理庁が公表したデータによると、特定技能1号外国人のうち転職経験者は全体の約22.4%(2021年1月〜2024年6月末に入国・許可を受け、2025年8月末までに転職した者)に上ります。
さらに、転職者のうち都道府県をまたぐ移動は延べ転職者数の66.0%を占めており、地方から大都市圏への人材流出が顕著です。
➡ 参考:出入国在留管理庁「第10回 特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議」(転籍制限期間の設定について)
このデータが示すように、地方・雪国の事業者は構造的に人材が流出しやすい立場に置かれています。
2. なぜ冬の南魚沼・湯沢は離職のトリガーになるのか
南魚沼・湯沢エリアは全国屈指の豪雪地帯です。
年間積雪量が2〜3メートルを超えることも珍しくなく、その厳しさは地元住民でさえ体力を要します。
外国人スタッフにとっては、生まれて初めて経験する「雪」が大きなストレス要因となるケースが少なくありません。
以下は、雪国特有の離職・無断転籍の主な動機として考えられる要因です(実務上の傾向に基づく想定例を含みます)。
① 除雪の重労働への抵抗感
農業や宿泊業で採用されたスタッフでも、冬場は毎日のように会社周辺や宿舎周りの除雪作業が発生します。
「聞いていた仕事と違う」「体が持たない」と感じるスタッフが増えるのが冬の特徴です。
② 交通遮断と孤立感
冬の南魚沼・湯沢エリアでは、豪雪による交通制限が頻発します。
移動の自由が奪われ、娯楽施設へのアクセスも制限される中で、精神的な孤立感が深まります。
「閉じ込められている」という感覚が転職・離職のきっかけになることがあります。
③ SNSによる給与・環境比較
外国人コミュニティのSNSは活発で、「東京や名古屋では同じ仕事で雪がなく、同水準か高い給与が得られる」という情報が瞬時に広まります。
こうした情報との比較の中で、「雪のある地域で働き続ける理由」を見失うケースがあります。
④ 登録支援機関によるサポートの限界
遠方の登録支援機関に支援を委託している場合、冬の豪雪で対面面談が困難になり、メンタルケアがオンラインのみになりがちです。
本来、登録支援機関は定期的な面談や生活相談への対応が義務付けられていますが、距離的・物理的制約から機能不全に陥るリスクがあります。
3.実際のトラブルパターン:こんなケースが起きている
以下のトラブル例は、南魚沼・湯沢周辺エリアや類似地域の事例をもとに、行政書士の視点で構成した想定例および傾向を示す事例です。
個別の特定事業者の情報ではありません。
〈 想定例①:「失踪」と「無断転職」を誤認して届出が遅れ、受入れ停止に 〉
【 状況 】
積雪が激しい1月、宿泊施設で働く特定技能スタッフが無断で姿を消しました。
会社は「夜逃げ(失踪)」と判断。
警察へ行方不明届を出したものの、出入国在留管理庁(入管)への届出は「本人が見つかってからで良いだろう」と後回しにしていました。
【 その後の経緯 】
実は本人は、SNSで知り合った他県の工場へ移っており、新しい職場で在留資格変更の手続きを行った際、前の会社が「特定技能雇用契約の終了届出」を提出していないことが発覚しました。
【 ペナルティの概要 】
特定技能所属機関には、雇用契約が終了した日から14日以内に入管へ「受入れ困難に係る届出書」等を提出する義務があります(出入国管理及び難民認定法第19条の18等)。
この義務を怠ったとして厳重注意を受けたうえ、「管理能力が不十分」とみなされ、その後1年間、新たな特定技能外国人の受け入れができなくなるという深刻な結果を招きました。
➡ 参考:出入国在留管理庁「特定技能所属機関・登録支援機関による届出」
〈 想定例②:除雪ばかりさせていたら「業務範囲外」と指摘 〉
【 状況 】
南魚沼の農業生産法人が特定技能(農業分野)でスタッフを受け入れていましたが、冬場は農作業がほぼないため、会社や宿舎周辺の除雪作業をメインの仕事として連日従事させていました。
【 結果と問題点 】
定期監査の際、登録支援機関から「これは特定技能の業務範囲を逸脱している」と指摘を受けました。
特定技能には「付随的な業務」として他の作業も認められていますが、本来の業務(農業なら農作業)を一切行わず除雪だけを長期間させることは、資格外活動に抵触する恐れがあります。
行政書士への相談後、冬季の業務内容を含む労働条件の見直しと書面整備を行うことで、最悪の事態を回避することができました。
〈 想定例③:遠方の登録支援機関が機能せず、孤立したスタッフが無断退去 〉
【 状況 】
コスト削減のため、地元の事情に不慣れな首都圏の登録支援機関に委託。
冬の豪雪による交通遮断が続く中、面談はオンラインのみとなり、スタッフの精神的な変化を見逃してしまいました。
【 結果 】
孤独感が限界に達したスタッフは「暖かい地域に行きたい」と、書き置きもなく退去。
支援計画で義務付けられている「相談・苦情への対応」が形骸化していたとして、支援機関の選定と管理の責任が問われました。
4. スタッフがいなくなったら:会社が絶対にやるべき3つの手続き
スタッフが突然いなくなった場合、「どうせ見つかるだろう」と放置することが最大のリスクです。
自社に非がない場合でも、行政手続きを怠ると会社側に不利益が生じます。
以下の3点は鉄則です。
① 出入国在留管理庁への届出(退職判明から14日以内)
特定技能雇用契約が終了した(または終了することが確定した)場合、「受入れ困難の事由が生じたとわかった日から14日以内」に、管轄の出入国在留管理局へ届出書を提出しなければなりません。
【 提出書類の主なもの 】
• 参考様式第3-4号「受入れ困難に係る届出書」(退職が決まった日から14日以内)
• 参考様式第3-1-2号「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」(退職後14日以内)
【 注意点 】
「退職が決まった日(わかった日)」と「実際に退職した日(退職日)」は異なります。
退職の申し出があった日など、退職が確定した時点から14日以内の提出が必要です。
この届出が不十分だと、引き続き特定技能外国人を受け入れることができなくなります。
また、届出を怠った場合、過料のペナルティが課される可能性もあります。
➡ 参考:出入国在留管理庁「特定技能所属機関・登録支援機関による届出」
② ハローワークへの「外国人雇用状況の届出」
特定技能外国人との雇用関係が終了した場合、雇用保険の資格喪失手続きと合わせて、ハローワークへの「外国人雇用状況届出」が必要です。
本人が不在で離職票を渡せない状況でも、手続き自体は進める必要があります。
離職理由の欄(自己都合・会社都合・失踪など)の記載については、事実関係を正確に把握したうえで慎重に判断することが重要です。
➡ 参考:厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
③ 住民税(特別徴収)の精算
給与から住民税を天引き(特別徴収)している場合、スタッフがいなくなると最後の住民税を徴収できないケースが発生します。
あらかじめ、退職・帰国・転出時の住民税精算について、多言語で説明した書面にサインをもらっておくことが、後々のトラブル防止につながります。
5. 行政書士に 「✔できること」 と 「✖できないこと」
トラブル発生時、行政書士・弁護士・社会保険労務士など、どこに何を頼めばよいかわからなくなりがちです。
以下に役割を整理します。
〈 ✔ 行政書士にできること 〉
• 出入国在留管理庁への届出サポート(受入れ困難届出書、雇用契約終了届出書等の作成・提出※)
• 在留資格変更・更新申請の取次(※)
• 雇用契約書・支援計画書・理由書等の書類作成
• トラブル発生時の入管対応・報告書のサポート
• 入管法に基づく適正な雇用管理のアドバイス
※ 出入国在留管理庁への申請・届出は、申請取次行政書士が行います。
〈 ✖ 行政書士にできないこと 〉
• 失踪したスタッフの捜索・身柄の確保(これは警察の業務です)
• 賃金未払い等の労働争議での交渉・代理(弁護士または社会保険労務士の業務)
• 訴訟・法的交渉(弁護士の業務)
ひとことで言えば、行政書士は「入管との橋渡し役」です。
適切な書類を、正確に、期限内に提出するプロフェッショナルとして、手続き面でのサポートを担います。
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 突然いなくなったスタッフに、未払い給与を支払う必要はありますか?
A. はい、支払う義務があります。
労働基準法により、実際に働いた分の賃金は必ず支払わなければなりません。
本人の口座に振り込むか、連絡が取れない場合は法務局への「供託」という手続きをとることになります。
「失踪したから支払わない」という対応は違法です。
Q2. 「付随業務」として1日中除雪させることはできますか?
A. 長期間にわたって除雪のみを行わせることは、付随業務の範囲を超えているとみなされる可能性があります。
特定技能の「付随業務」はあくまで主たる業務(農業なら農作業、宿泊なら接客等)を行いながら、一時的に補助する業務として認められるものです。
冬季の業務内容は事前に書面で明確にしておくことが重要です。
Q3. 「転職したい」と言ってきたスタッフを引き止めることはできますか?
A. 強制的に引き止めることはできません。
特定技能外国人には転職の自由が認められており、契約期間満了前の退職であっても違約金を請求することは禁止されています(出入国管理及び難民認定法)。
ただし、退職理由をしっかりヒアリングし、改善できる環境があれば話し合うことは有益です。
また、円満退職に向けた引き継ぎのサポートや次の職場への紹介などは可能な範囲で行うことが望ましいです。
Q4. 受入れ停止のペナルティはどんな場合に適用されますか?
A. 出入国在留管理庁の運用要領によると、「特定技能所属機関の責めに帰すべき事由により、外国人の行方不明者を発生させていないこと」が、特定技能外国人を受け入れるための必須条件のひとつとされています。
事業者側の責任(賃金不払い、劣悪な労働環境、不適切な管理など)で行方不明者が出た場合、雇用契約締結前の1年以内および契約締結後の期間において行方不明者がいると、新規受入れができなくなるだけでなく、現在受け入れているスタッフについても退職させなければならなくなります。
➡ 参考:出入国在留管理庁「特定技能外国人の受入れに関する運用要領」
Q5. 届出の提出期限に間に合わなかった場合、どうすればよいですか?
A. 期限を過ぎてしまった場合でも、放置するよりは速やかに提出することが重要です。
ただし、遅延に正当な理由があるかどうかの判断は難しいため、迷ったらすぐに行政書士などの専門家に相談してください。
7. 雪国で特定技能と長くつき合うための予防策
トラブルを防ぐには、事後対応だけでなく「選ばれる職場」を作ることが本質的な解決策です。
① 冬季の業務内容を雇用前に書面で明確にする
雇用契約書や多言語での説明書に、冬場にどのような業務(付随業務の範囲内)を行うかを具体的に記載し、納得のうえで署名してもらいましょう。
「聞いていなかった」というトラブルの多くは、事前の説明不足から起きます。
② 地域密着型の支援機関・行政書士を活用する
南魚沼の冬を実際に知っている地域の専門家に支援を任せることで、豪雪による交通遮断時の対面サポートや、スタッフの小さな変化への早期対応が可能になります。
遠方の登録支援機関では難しい「顔が見える支援」が、冬の孤独感軽減に大きな効果を発揮します。
③ 住環境の整備とコミュニケーション機会の確保
Wi-Fi環境・交通手段(買い物・通院へのサポート)・多言語での生活情報提供など、「雪に閉じ込められている」と感じさせない環境づくりが離職防止に直結します。
また、同国の仲間との交流機会を設けることも孤立感の解消につながります。
④ 育成就労制度への対応を今から考える
技能実習制度に代わる「育成就労制度」が2027年6月を目途に開始予定です。
この制度では、原則1〜2年間の就労を経た後、本人の意向による転籍が条件付きで認められます。
都市部への人材流出防止策も盛り込まれる予定ですが、地方・雪国の事業者にとっては引き続き「定着させる魅力ある職場づくり」が課題となります。
➡ 参考:出入国在留管理庁「育成就労制度」
8. 特定技能に関わる周辺知識:これも知っておきたい
① 在留資格変更許可申請の必要性
特定技能外国人が転職する際は、単純に退職届を出せばよいわけではありません。
同じ「特定技能ビザ」であっても、勤務先が変わる場合は「在留資格変更許可申請」が必要です。
これは、特定技能ビザが「指定書」で勤務先を個別に指定しているためです。
この手続きが完了するまで、正式には新しい職場で働くことはできません。
② 転職を申し出てきたスタッフへの情報提供義務
スタッフが転職を希望している場合、所属機関として次の職場を探す支援や情報提供を行うことが求められています。
一方的に「勝手に転職するな」という態度は制度の趣旨に反します。
③ 育成就労・2号特定技能への移行チャンスを活用する
優秀なスタッフを長期雇用につなぐには、特定技能2号(熟練技能を持つ上位資格・在留期間更新無制限)への移行を視野に入れたキャリア支援も有効です。
外国人スタッフに「将来のビジョン」を示すことが、定着率向上にも寄与します。
9. まとめ:雪国での特定技能活用に「正しい知識」と「地域密着の専門家」を
特定技能制度は、深刻な人手不足が続く南魚沼・湯沢エリアにとって、なくてはならない制度です。
しかし、転職の自由・冬の厳しさ・孤立しやすい環境という3つのリスクが重なる雪国では、都市部以上に細やかな管理と生活支援が求められます。
万が一トラブルが起きた際に重要なのは「初動の速さ」です。
事由が発生した日から14日以内の届出を守るだけで、最悪のペナルティを回避できるケースも多くあります。
「もしかしてうちのスタッフが次の冬に……」と少しでも不安を感じている事業者の方は、問題が起きる前に専門家に相談することをお勧めします。
行政書士は、特定技能外国人の受入れに関する次のようなサポートを提供しています。
• 特定技能に関する入管への各種届出書作成・提出(申請取次行政書士)
• 雇用契約書・支援計画書・理由書等の書類作成
• トラブル発生時の緊急対応サポート(14日以内届出のサポート)
• これから特定技能を導入したい方向けの事前相談・制度説明
• 冬季業務設計などのアドバイス
もし、貴社のスタッフがいなくなってしまったら、あるいは「これから特定技能を導入したいが、雪国特有のリスクが不安だ」とお考えなら、迷わず行政書士などの専門家へご相談ください。
出典・参考
• 出入国在留管理庁「特定技能制度」
• 出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」(Q13・転職について)
• 出入国在留管理庁「特定技能所属機関・登録支援機関による届出」
• 出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数の公表等」
• 出入国在留管理庁「特定技能外国人の受入れに関する運用要領」
• 出入国在留管理庁「第10回 特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議」(転籍制限期間の設定について)
• 外務省「在留資格「特定技能」」
• 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
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