〈 はじめに:「忙しいから後でいいか」が経営の致命傷になる 〉
冬の南魚沼。
連日の大雪、積もり続ける雪壁、灰色の空。
日本人でも心が折れそうになる環境の中で、母国では雪を見たこともなかった技能実習生が、ある朝突然姿を消す——。
こうした「雪国での失踪」は、豪雪地帯を抱える新潟県内の事業者にとって、決して他人事ではありません。
しかし、失踪そのものよりも恐ろしいのが、その後の「報告義務の放置」です。
繁忙期でバタバタしているうちに届出の期限を過ぎてしまい、次の外国人採用が何年もできなくなった——そんな事態が実際に起きています。
本記事では、行政書士の視点から、技能実習生が突然いなくなったときに経営者がとるべき正しい行動と、報告を怠った場合の法的リスクを、わかりやすく解説します。
1. 雪国特有のリスク——なぜ南魚沼・湯沢エリアで失踪が起きるのか
南魚沼市や湯沢町、魚沼市を含む新潟県南部は、日本有数の豪雪地帯です。
冬場の積雪量は2メートルを超えることも珍しくなく、一般の日本人ですら「雪かきで腰が限界」「外に出られない」と音を上げるほどの環境です。
こうした地域で技能実習生を受け入れる際、見落としがちな「3つのリスク」があります。
① 除雪作業への身体的・精神的な限界
宿舎周辺の雪かきや、大雪の中での通勤が重なると、実習生は体力的な消耗だけでなく、「なぜ自分がこんな思いをしなければならないのか」という精神的なストレスを抱えます。
業務外で雪かきを強制されていると感じるケースも報告されており、これが積み重なって「もう限界」という決断につながることがあります。
② 閉塞感と孤立からくるメンタルの悪化
雪で外出が制限され、商業施設も遠く、娯楽も少ない豪雪地帯の冬。
母国の家族や友人と連絡を取り合いながらも、「自分だけ取り残されているような感覚」に陥る実習生は少なくありません。
特に初めての冬を迎えるケースは要注意です。
③ SNSを通じた「別の場所への誘惑」
「こっちは雪が降らない。給料も悪くない」——。
同じ国籍の先輩や知人から、SNSを通じてこうした情報が届くことがあります。
中には不法就労の斡旋である場合もあり、実習生がそのまま失踪して不法就労に転じるケースは、法務省の調査でも繰り返し指摘されています。
2. 【 想定例 】 報告放置で外国人採用が止まった飲食店のケース
以下は、雪国の豪雪地帯でよくあるケースをもとにした想定例です。
実際の事業者からの相談をベースにしていますが、特定の事業者を指すものではありません。
【 想定例 】 南魚沼市内の飲食店Aの場合
冬の繁忙期に備えて技能実習生を受け入れたAさんの飲食店。
1月に入ると連日の大雪が続き、実習生のBさんは「もう限界です」と伝えてきた。
「少し様子を見てから相談に乗ろう」と思っていたある朝、Bさんの部屋の荷物が消えていた。
「忙しいから、落ち着いてから連絡すればいいだろう」。
Aさんはそう思い、外国人技能実習機構(OTIT)への届出を1か月以上放置してしまった。
後日、機構からの連絡で事態が発覚。
Aさんの飲食店は届出義務違反として判断され、その後の外国人材(技能実習・特定技能)の受け入れに重大な影響が生じることとなった。
繁忙期の翌シーズンも人手不足で店が回らなくなり、結局コース料理の提供を大幅に縮小せざるを得なくなった。
この想定例が示すように、「失踪したこと自体」よりも「報告しなかったこと」のほうが、事業者にとってより深刻な打撃となります。
3. 雇用主が負う「届出義務」——知らなかったでは済まされない
① 技能実習生が失踪した場合の法的義務
技能実習生が失踪(行方不明)になった場合、雇用主(実習実施者)には、法律で定められた厳格な報告義務があります。
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)第19条に基づき、実習の継続が困難になった場合は「遅滞なく」(実務的には事案発生から2週間以内を目安に)外国人技能実習機構(OTIT)へ「技能実習実施困難時届出書」を提出しなければなりません。
➡ 参考:外国人技能実習機構(OTIT)「技能実習実施困難時の届出」
② 「知らなかった」は通用しない——ペナルティの全体像
報告を怠ったり、虚偽の内容を届け出たりした場合、以下の深刻なリスクが生じます。
【 実習認定の取消し 】
現在受け入れている他の技能実習生も実習を継続できなくなる場合があります。
認定が取り消された事実は公表され、企業名が広く知られることになります(技能実習法第16条第2項)。
【 5年間の受け入れ停止(欠格事由への該当) 】
技能実習計画の認定欠格事由(技能実習法第10条)に該当すると、新たな技能実習計画の認定を5年間受けられなくなります。
これは技能実習生だけでなく、特定技能外国人の受け入れにも影響します。
【 優良認定の剥奪と受け入れ枠の縮小 】
「優良な実習実施者」として認定されていた場合、その認定が取り消されることで、受け入れ可能な人数枠も減少します。
【 事業者名の公表 】
出入国在留管理庁のウェブサイトでは、行政処分を受けた実習実施者・監理団体の名称が定期的に公表されています。
地域の信頼を失うリスクは計り知れません。
➡ 参考:出入国在留管理庁「外国人技能実習制度」
なお、特定技能外国人が行方不明になった場合も、特定技能所属機関は14日以内に「受入困難に係る届出書」を提出する義務があります。
事業者の責任の有無にかかわらず、届け出をしない場合は義務違反となり、欠格要件に該当する可能性があります。
➡ 参考:出入国在留管理庁「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」
4. 失踪発覚直後にやるべき5つの手順
パニックにならず、以下の順序で対応を進めてください。
【 Step 1:所在確認と状況の記録 】
まず、本人の携帯電話・SNS・同居している他の実習生への聞き込みを行います。
• 残された荷物・貴重品・在留カードの有無を確認する
• いつから所在不明になったかを正確に特定し、記録しておく(後の届出書類に必要)
• 本人が残したメモ・メッセージなどがあれば保存する
【 Step 2:監理団体(組合)への即時連絡 】
団体監理型の場合は、まず監理団体に連絡します。
監理団体には指導・助言を行う義務があるため、対応を一緒に協議しながら進めます。
監理団体を通じた届出が求められる場合もあります。
【 Step 3:警察署への「行方不明者届」の提出 】
事件性の有無にかかわらず、最寄りの警察署(南魚沼警察署など)に行方不明者届を提出します。
受理番号が後の入管関係の手続きで必要になる場合があります。
【 Step 4:外国人技能実習機構への「実施困難時届出」の提出 】
事由の発生から2週間以内を目安に、外国人技能実習機構(OTIT)の地方事務所・支所の認定課に「技能実習実施困難時届出書」を提出します。
• 企業単独型の場合:省令様式第9号(OTITへ直接提出)
• 団体監理型の場合:省令様式第18号(監理団体を通じてOTITへ提出)
記載内容は、失踪の経緯・これまでの指導状況・今後の対応方針などです。
虚偽の記載は厳禁です。
➡ 参考:外国人技能実習機構(OTIT)「技能実習実施困難時の届出」
【 Step 5:社会保険・ハローワーク関連の手続き 】
雇用関係が終了したと判断する場合は、ハローワークへ雇用保険被保険者資格喪失届を提出します。
また、社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失手続きも忘れずに行いましょう。
5. 行政書士にできること・できないこと
失踪事案が発生した際、行政書士は「入管書類のプロ」として重要な役割を果たします。
ただし、できることとできないことを正確に理解しておくことが大切です。
| 区分 | ✔ 行政書士にできること | ✖ 行政書士にできないこと |
| 書類の作成・提出代行 | OTITや入管へ提出する「実施困難時届出書」などの作成・代行 | 虚偽内容を含む報告書の作成 |
| 法令アドバイス | 入管法・技能実習法に基づいた今後の受け入れ継続の可能性やペナルティ回避のためのアドバイス | 失踪した本人の捜索(探偵業務)や警察への捜査依頼 |
| 制度移行のサポート | 2027年4月施行の「育成就労制度」への準備・対応 | 賃金未払いなど労使紛争に関する代理交渉(弁護士の業務) |
| 法令遵守の継続支援 | 定期的なコンプライアンスチェック・顧問契約による予防的サポート | 出入国審査への直接の同行・関与 |
「書類の書き方がわからない」
「この状況でどう対応すれば次の採用に影響しないか」
こうした疑問は、まず行政書士に相談することが近道です。
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 実習生が「雪が嫌だ、帰国したい」と言ってきた場合は?
A. 無理に引き止めると「強制労働」とみなされるリスクがあります。
監理団体と相談のうえ、本人の意思を確認してから、自己都合による帰国手続きを適正に進めるのが最善です。
帰国に必要な費用を実習生に負担させることは禁じられているため、注意が必要です。
Q2. 失踪した実習生に未払い賃金がある場合は?
A. 働いた分の賃金を支払う義務は、失踪後も消えません。
本人が行方不明の場合は、法務局での「供託」という手続きを活用することが求められる場合があります。
勝手に相殺したり未払いのまま放置したりすることは、さらなる法令違反につながります。
Q3. 届出書の様式はどこで入手できますか?
A. 外国人技能実習機構(OTIT)の公式ウェブサイトから無料でダウンロードできます。
PDF版・Word版・QRコード付きPDF版が揃っています。
➡ 参考:外国人技能実習機構(OTIT)「技能実習実施困難時の届出」
Q4. 失踪から数週間が経過してしまっていますが、今からでも届け出るべきですか?
A. はい、今すぐ届け出ることを強くおすすめします。
期限を過ぎてからの届出は義務違反の事実を消すことはできませんが、放置し続ける(または隠蔽する)ほどペナルティが重くなります。
過去の不正を隠したまま次の外国人材の採用申請を行うと、在留資格等不正取得罪に問われる可能性があります。
まずは行政書士や監理団体に相談してください。
Q5. 失踪した実習生が後日自ら戻ってきた場合は?
A. 一度届出を行った後に本人が戻ってきた場合でも、その後の対応(実習の再開・帰国・在留資格の変更等)について改めて機構や入管に相談する必要があります。
自己判断で実習を再開させると新たな違反につながる恐れがあるため、専門家への相談が不可欠です。
Q6. 雪国特有の生活環境について、事前に実習生に説明する義務はありますか?
A. 明示的に「雪国の環境を説明しなければならない」という条文はありませんが、技能実習制度の趣旨や「技能実習生の保護」の観点から、入国前に生活環境・気候について十分な情報提供を行うことが強く推奨されています。
写真・動画を使った事前教育は、失踪防止のための効果的な対策の一つです。
7. 2027年4月施行「育成就労制度」で失踪は減るか?——今から準備すべきこと
① 技能実習制度から育成就労制度へ
2024年6月に改正入管法が公布され、長年にわたる技能実習制度が発展的に解消され、新たに「育成就労制度」が創設されます。
施行日は2027年4月1日と正式に決定しました。
➡ 参考:出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
② 「転籍」が認められるようになる
現行の技能実習制度では、原則として実習期間中の転籍(職場の変更)は認められていません。
これが「雪がつらくても逃げるしかない」という状況を生み出してきた一因です。
育成就労制度では、一定の要件を満たせば本人の意向による転籍が認められるようになります。
たとえば、雪国の環境がどうしても合わない場合に、失踪という極端な手段を選ばず「正式な手続きで職場を変える」という選択肢が生まれます。
➡ 参考:JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)「育成就労制度」
③ 今から準備すべきこと
• 監理団体が「監理支援機関」の許可要件を満たすかどうかの確認
• 雇用条件・処遇の見直し(育成就労制度では賃金水準の適正化がより厳格化される見込み)
• 入国前の日本語教育・生活情報提供の体制整備(育成就労では日本語能力要件が導入)
• 行政書士との顧問契約による継続的な制度対応
制度移行は一夜にして完了するものではありません。
2027年4月に慌てないためにも、2026年中から準備を始めることが賢明です。
8. 雪国での外国人雇用を長続きさせるために
失踪を防ぐためには、事後の書類対応よりも「事前のケア」が何より重要です。
南魚沼・湯沢エリアで外国人と共に長く働くために、今すぐできることをまとめます。
① 入国前のリアルな生活情報の提供
「南魚沼では冬に2メートル以上の雪が積もる」
この現実を、写真・動画を使って入国前の段階から丁寧に伝えましょう。
「思っていたのと全然違う」という心理的なギャップが、失踪の引き金になることは少なくありません。
② 防寒装備の充実と生活面のサポート
雪国仕様の防寒着・長靴・手袋などを事業者側で準備・支給することは、実習生の定着に大きく貢献します。
また、冬場に利用できる地域のコミュニティイベント(例:しおざわ雪譜まつり等)への参加を促すなど、「雪を楽しめる」環境づくりも効果的です。
③ 定期的なメンタルケアの仕組みをつくる
月1回程度、監理団体や通訳を交えた面談の機会を設けましょう。
不満や悩みを早期に把握できれば、失踪を防ぐだけでなく、実習生のモチベーション維持にもつながります。
④ 行政書士との顧問契約でリスクを先手で防ぐ
技能実習制度や在留資格に関する法令は、頻繁に改正されます。
定期的な法令遵守チェックを行政書士に依頼する「顧問契約」の形をとることで、書類の手続き漏れや制度の変化によるトラブルを未然に防ぐことができます。
9. まとめ:事前の一手が経営を守る
技能実習生が突然いなくなった際、経営者が最も避けるべきは「忙しさを言い訳にした放置」です。
• 失踪発覚後、2週間以内に外国人技能実習機構への届出が必要
• 報告を怠ると、最長5年間にわたる外国人材の受け入れ禁止という深刻なペナルティを受ける可能性がある
• 届出書類の作成・提出代行は行政書士が対応できる
• 2027年4月施行の育成就労制度への準備は、今から始めることが重要
南魚沼・湯沢・魚沼エリアの旅館・飲食店・農業・製造業を営む事業者の皆様にとって、外国人材は繁忙期を支える大切な戦力です。
その雇用環境を守るために、法令をきちんと理解し、専門家と連携することが、長期的な経営安定につながります。
【 ご相談はお気軽に——行政書士がサポートできること 】
「届出書の書き方がわからない」
「自分の状況では次の採用に影響が出るのか知りたい」
「育成就労制度への移行をどう準備すればいいか」
そんなお悩みは、ぜひ行政書士などの専門家にご相談ください。
出典・参考
• 外国人技能実習機構(OTIT)「技能実習実施困難時の届出」
• 出入国在留管理庁「外国人技能実習制度」
• 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
• 出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」
• e-Gov法令検索「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」
• JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)「育成就労制度」
• 出入国在留管理庁「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」
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