雪が溶け始めると、地面の状態や建物のまわりがはっきり見えてきます。
南魚沼市や湯沢町など豪雪地帯にお住まいの方なら、毎年この時期に「地面の様子が変わった」「建物に何か異変がある」と気づかれることがあるかもしれません。
そのなかでも特にご相談が増えるのが、屋根の軒先や雨どいが、知らないうちに隣の敷地に入り込んでいたという問題です。
雪の重みや経年劣化によって少しずつ変形した建物が、春を迎えてはじめてその姿を露わにする──これは南魚沼周辺に特有ともいえる、リアルな土地トラブルのひとつです。
本記事では、こうした「越境問題」について、法律的な背景や実際の対処法をわかりやすく解説します。
一人で悩む前に、ぜひ最後までお読みください。
1. なぜ「雪解け後」に越境が発覚しやすいのか
冬の間、建物は数メートルに及ぶ積雪に耐えるため、軒先や雨どいに非常に大きな荷重がかかり続けます。
南魚沼市は国内屈指の豪雪地帯であり、特別豪雪地帯にも指定されています。
この重みが数十年続けば、当初は境界内に収まっていた屋根の先端が、少しずつ外側に開いてしまうことがあります。
また、雪に覆われている冬の間はその変化に気づきにくく、雪が解けてはじめて「雨どいが隣の敷地に入り込んでいる」「屋根の一部が境界を越えている」と判明するケースが多いのです。
こうした状況は次のような形で顕れます。
• 軒先が数センチ〜十数センチ、隣の敷地に張り出している
• 落雪した雪が隣の家の壁や庭に被害を与えていた
• 雨どいが歪んで隣の敷地上に突き出している
いずれも「悪意があってやったわけではない」ものばかりです。
しかし、意図的かどうかにかかわらず、他人の土地の上空や地表に構造物が存在する状態は、不動産の所有権侵害にあたる可能性があります。
気づいたら早めに対処することが大切です。
2. まず確認する:「自分の土地」の範囲を正しく知る
越境問題に対処する前提として、「そもそも境界はどこか」を明確にしておく必要があります。
感覚的に「だいたいここが境界のはずだ」という認識ではトラブルが解決しません。
① 境界標(境界杭)の確認
土地の境界には、通常「境界標」と呼ばれる石やコンクリート製の杭、あるいは金属プレートなどが設置されています。
雪解け直後は、積もった雪の重みや除雪機による作業で境界標が動いていたり、泥に埋まっていたりすることがあります。
まずは敷地の四隅や境界線上に境界標があるか確認しましょう。
もし見当たらない場合は、「地積測量図」(法務局で取得可能)と現地を照らし合わせることが必要になります。
② 地積測量図・公図の取得と読み解き
法務局では、登記されている土地の形状や面積を示す「地積測量図」や、土地の位置関係を示す「公図」を取得できます。
ただし、南魚沼を含む地方の古い土地では、「図面と現況が大きくずれている」ことも珍しくありません。
特に農地転用や分筆が繰り返された土地では、公図の精度が低いことも多いです。
このような場合には、土地家屋調査士による現地測量が必要になります(後述)。
3. 越境物に関する法的な考え方
① 民法第218条:雨水を直接隣地へ注ぐことの禁止
民法第218条では、「土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐような構造の屋根その他の工作物を設けてはならない」と定めています。
屋根の軒先が越境していれば、この規定に違反する状態に近づく可能性があります。
落雪についても同様の考え方が類推されます。
② 2023年施行の民法改正と「越境」の扱い
2023年4月1日に施行された令和3年民法改正(相隣関係規定の見直し)により、たとえば隣の木の枝が越境している場合は一定の条件下で自ら切り取れるようルールが明確化されました。
➡ 参考:法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
ただし、この改正は主に「竹木の枝」に関するものです。
建物の屋根・雨どい・軒先といった構造物の越境については、この条文は直接適用されません。
構造物の越境はより複雑な法的判断が必要であり、当事者間の合意や専門家の関与が欠かせない問題です。
4. 越境問題の円満な解決策:「越境物に関する合意書」の作成
越境が確認されたとき、いきなり「今すぐ撤去してほしい」と強く主張するのは、現実的ではありません。
建物の軒先を数センチ削ることは物理的・費用的に非常に困難ですし、感情的な対立を生むだけです。
実務上、多く採られるのが「越境物に関する合意書」を双方が書面で取り交わすという方法です。
この合意書とは、現状の越境を互いに確認したうえで、将来の是正義務や補償責任などを文書で定めるものです。
口約束では後から「言った・言わない」の争いになりがちですが、書面があれば第三者にも内容を示すことができます。
〈 合意書に盛り込むべき主な項目 〉
① 越境の事実の確認
どの部分が、どのくらいの寸法で越境しているかを明記します。
図面や写真を添付できるとより明確です。
② 将来の是正義務
建て替えや大規模修繕の際には、必ず境界内に収める旨を定めます。
これが抜けると「いつまでも現状のまま」になりかねません。
③ 損害賠償責任の明確化
越境物が原因で隣地に被害が生じた場合(雨どいの破損による浸水など)の責任の所在を明確にしておきます。
④ 承継条項
土地・建物の所有者が変わった場合(相続や売却時)にも、この合意書の内容を引き継ぐことを定めます。
これがないと、新たな所有者との間でまた一から交渉が必要になります。
5. 行政書士にできること・できないこと
境界トラブルと一口に言っても、関わる専門家の役割はそれぞれ法律で定まっています。
ここを正しく理解しておくと、相談先で混乱が起きません。
〈 ✔ 行政書士ができること 〉
書類作成のプロとして、越境物に関する合意書・念書・通知書・内容証明郵便の作成を行います。
これらの書類を「法的効力のある形式」で作成することが、行政書士の専門業務です。
また、法務局での公図・地積測量図・登記事項証明書の取得と内容の説明も行えます。
相手方と話し合いを行う前に、「自分の土地の正確な情報」を把握するためのサポートができます。
さらに、当事者同士の関係が険悪になる前に第三者として中立的な立場から書面を作成し、円満な合意を促す役割も担えます。
〈 ✖ 行政書士にできないこと(他の専門家の領域) 〉
• 代理交渉(弁護士の業務)
相手方と直接交渉して和解を取り付ける行為は、弁護士のみが行える業務です。
紛争性が高くなった場合は弁護士への相談が必要です。
• 現地での境界測量・境界杭の設置(土地家屋調査士の業務)
正確な境界を現地で確定し、杭を打つ作業は土地家屋調査士が行います。
6. 話し合いが進まないときの「内容証明郵便」活用法
何度伝えても相手が動かない、越境を認めてもらえない、そういったケースで有効なのが内容証明郵便です。
内容証明郵便とは、「誰が、いつ、どのような内容の文書を、誰に送ったか」を日本郵便が証明するサービスです。
「言った・言わない」のトラブルを防ぐための公的な記録になります。
➡ 参考:日本郵便「内容証明」
行政書士が作成した内容証明郵便には、いくつかの実質的な効果があります。
まず、相手に事の重大さを認識させる心理的な効果があります。
行政書士の名前で届く書面は、「これは単なるお願いではなく、法的手続きの一歩手前にある」というシグナルとして受け取られます。
また、万が一裁判になった際の証拠としても機能します。
「話し合いを試みた事実」を示せることは、訴訟において重要な意味を持ちます。
ただし、内容証明はあくまで「通知」であり、相手に強制力はありません。
送ったからといって相手が必ず動くわけではありませんが、交渉の場を正式に設定するうえでの有効な手段です。
7. 「筆界特定制度」という選択肢もある
当事者間での話し合いがどうしてもまとまらない場合、裁判に頼らなくても境界を公的に明らかにできる制度があります。
それが筆界特定制度です。
これは、土地所有者などの申請に基づいて、法務局の筆界特定登記官が専門家(筆界調査委員)の意見を踏まえて「元々の筆界」を明らかにする制度です。
訴訟よりも費用・時間の負担が少なく、公的な判断として筆界を確認できます。
➡ 参考:法務省「筆界特定制度」
ただし、筆界特定はあくまで「元々の筆界の位置」を確認するものであり、所有権の範囲を決定するものではない点に注意が必要です。
また、この申請は法務局に対して行われるものですが、申請書類の準備等については行政書士がサポートできる部分もあります。
8. よくあるご質問(境界・越境トラブル編)
Q1. 雪解け後、隣家の雨どいが倒れてうちの敷地に入ってきた。勝手に撤去していい?
絶対にやめてください。
たとえ自分の敷地内に倒れ込んできたとしても、それは相手の財産です。
勝手に撤去すると器物損壊罪(刑法第261条)に問われる可能性があります。
まず現状を写真で記録し、相手方に連絡して撤去を求めましょう。
緊急性が高い場合は、行政書士に相談したうえで、適切な通知書を速やかに作成することをお勧めします。
Q2. ずっと前から越境していたら、時効で相手の土地になるのでは?
「取得時効」という制度(民法第162条)がありますが、要件は非常に厳格です。
単に屋根の一部が越境しているだけでは、「他人の土地を占有している」とはみなされないケースがほとんどです。
ただし、放置しておくと将来的なリスクが高まります。
越境の事実を確認したら、合意書を取り交わして時効の更新(中断)を図ることが重要です。
また、相手方の土地が売却・相続された際に初めて問題が表面化することもあります。
早めの対応が得策です。
Q3. 相手が越境を認めない。どうすればいい?
まずは書面で事実を通知することが重要です。
口頭での話し合いだけでは証拠が残りません。
行政書士が作成した内容証明郵便を送付することで、交渉の経緯を記録に残しつつ、相手方に正式な問題提起を行うことができます。
それでも進展がない場合は、弁護士への相談や調停・筆界特定制度の活用を検討します。
Q4. 自分の家の屋根が越境していると言われた。どう対応すればよい?
まず測量や図面を確認して、事実関係を把握しましょう。
越境が事実であれば、感情的に反発するより、合意書の締結に応じる姿勢を示したほうが円満に解決できます。
「すぐに撤去はできないが、建て替え時には境界内に収める」という内容の合意書を取り交わすことが一般的です。
9. 今後の課題:空き家からの越境に要注意
南魚沼市や魚沼市など、中山間地域を中心に空き家の増加が続いています。
空き家になると建物の管理が行き届かなくなり、雪の重みで軒先が崩れたり、雨どいが落下したりするリスクが高まります。
問題は、所有者が遠方にいる、あるいは相続放棄された結果として誰も管理者がいない空き家の場合、「誰に連絡すればいいかわからない」状態になることです。
こうした場合の対処法として次のような手段があります。
① 相続財産清算人の選任申立て
相続放棄された不動産については、利害関係人が家庭裁判所に申立てを行い、相続財産清算人を選任してもらう制度があります(民法第952条)。
選任された清算人が管理・処分を行います。
➡ 参考:最高裁判所「相続財産清算人の選任」
② 自治体の空き家対策窓口への相談
南魚沼市でも空き家対策に関する窓口が設けられており、危険性の高い空き家については行政指導が行われることがあります。
➡ 参考:南魚沼市「空き家バンク」
③ 事前の境界確認
土地を親から引き継ぐ際、あるいは売却・賃貸を検討する際には、必ず境界の確認を行っておくことが将来のトラブル防止につながります。
〈 売買・相続時に越境を発見した場合の注意点 〉
「実家を売ろうとしたら、不動産会社から屋根が越境していると指摘された」というケースも増えています。
越境が解消されていない物件は、買い手がローンを組みにくくなる、売却価格が下がるなどの不利益が生じやすいです。
こうしたリスクを回避するために、不動産を売買・相続するタイミングこそ、境界と越境の状況を専門家とともに確認しておくべきです。
行政書士は、この確認作業の支援や必要書類の整備をサポートすることができます。
10. まとめ:雪解けの「今」が動くべきタイミング
積雪が消えて地面が見えてくるこの時期は、普段は雪に隠れていた問題に気づける数少ないタイミングです。
境界に関わるトラブルは、放置するほど解決が難しくなります。
特に雪国では毎年の積雪によって状況が変化し得るため、早めの確認と対処が重要です。
「お隣には言いにくい」「これって法律的にどうなんだろう」と感じているなら、まず専門家に相談することをお勧めします。
行政書士は弁護士や土地家屋調査士とは異なりますが、こうした問題の入り口として書類の力で解決の糸口を開くことを得意としています。
大きな紛争になる前に、書面でしっかり現状を整理しておくことが、結局は最短の解決策です。
• 越境物に関する合意書を作成したい
• 相手に正式に通知したい(内容証明郵便の作成)
• 境界の状況を確認して、将来のトラブルを防ぎたい
• 不動産の売買・相続に備えて書類を整えておきたい
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、行政書士などの専門家にご相談ください。
雪が解け始めたこの時期に、安心できる春のスタートを切りましょう。
出典・参考
• 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
• 法務省「筆界特定制度」
• 日本郵便「内容証明」
• 最高裁判所「相続財産清算人の選任」
• 南魚沼市「空き家バンク」
• 日本行政書士会連合会「行政書士の業務」
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