冬の間、多くのスキーヤーで賑わうゲレンデも、雪解けとともに静寂を取り戻します。
しかし近年、その広大な土地を「眠らせておくのはもったいない」という声が高まっています。
実際、南魚沼市や湯沢町などのスキーリゾート地域では、グリーンシーズン(夏季)にキャンプ場やグランピング施設、音楽フェス、マルシェといった多彩な事業を展開するスキー場が増加しています。
舞子スノーリゾートではグランピングとオートキャンプ場を、上越国際スキー場ではプレイランドを運営するなど、通年での収益確保に成功している事例が見られます。
➡ 参考:新潟県観光協会「スキーゲレンデ グリーンシーズン」
ところが、「スキー場として許可を得ている土地」を「別の用途」で使うには、想像以上に複雑な法規制が存在します。
旅館業法、農地法、都市計画法、建築基準法、消防法、食品衛生法――関係する法律は多岐にわたり、それぞれに許可や届出の手続きが必要です。
「イベント直前に保健所から中止勧告を受けた」「多額の投資をしたのに営業許可が下りない構造だった」――このような事態を避けるため、本記事ではスキー場施設の夏季転用で必要な許可・届出を、具体例とともに徹底解説します。
1. なぜスキー場の夏季活用に許可が必要なのか
① スキー場はあくまで「スキー場」として許可された土地
多くの方が見落としがちな事実ですが、スキー場として営業している土地は、「冬季にリフトを運行し、スキー客に滑走させる」という特定の用途で許可を得ているに過ぎません。
夏にキャンプ場を開設したり、飲食店を運営したり、宿泊施設を建設することは、法律上は「用途変更」もしくは「新たな事業」として扱われます。
そのため、用途や規模に応じて、以下のような法的手続きが必要になります。
• 建築基準法:建物の用途変更確認申請
• 旅館業法:宿泊施設を営む場合の許可取得(2023年12月13日施行の改正法対応)
• 食品衛生法:飲食店営業許可
• 消防法:宿泊施設の消防設備設置
• 農地法:農地を駐車場や施設敷地に転用する場合の許可
• 都市計画法:市街化調整区域での開発許可
• 自然公園法:国立・国定公園区域内での工作物設置許可
② 「届出だけでいい」は危険な思い込み
「一時的なイベントだから届出だけで大丈夫」と考えるのは危険です。
実際には、規模や内容によっては正式な許可が必要であり、無許可で実施すれば営業停止命令や罰則の対象となります。
特に2023年12月13日に施行された改正旅館業法では、簡易宿所営業の要件が明確化されており、グランピング施設やキャンプ場でも宿泊料を徴収する場合は旅館業許可が必要となるケースが増えています。
➡ 参考:厚生労働省「改正旅館業法」
2. スキー場の土地が持つ「特殊な性質」を理解する
スキー場の敷地は、ひと口に「広大な空き地」と見えても、実は複雑な土地利用規制の対象となっています。
① 国立・国定公園区域内の場合
南魚沼市や湯沢町のスキー場の多くは、上信越高原国立公園などの自然公園区域内に位置しています。
この場合、以下の行為には環境省や都道府県の許可が必要です。
• 工作物(建物、トイレ、看板など)の新築・増築
• 樹木の伐採
• 土地の形状変更(造成工事など)
➡ 参考:環境省「自然公園法に基づく申請・届出」
② 森林法の規制(林地開発許可)
一定規模以上(通常1ヘクタール以上)の森林を開発する場合、林地開発許可が必要になります。
ゲレンデに新たに建物を建てる、駐車場を拡張するといった行為が該当する可能性があります。
③ 農地法の適用
意外に見落とされがちですが、スキー場の下部エリアやリフト乗り場周辺が「農地」として登録されているケースがあります。
この場合、キャンプ場や駐車場として利用するには農地転用許可が必要です。
農地転用許可制度は、優良農地を確保し農業生産力を維持するために設けられた制度で、市街化調整区域内の農地を転用する場合は都道府県知事または指定市町村の許可が必要です。
許可には立地基準(農地区分)と一般基準(事業の確実性、周辺への影響など)の両方をクリアする必要があります。
➡ 参考:農林水産省「農地転用許可制度について」
特に注意すべきは、農業振興地域(農振地域)に指定されている土地です。
この場合、まず農振除外の手続きを行った上で、農地転用許可を取得する必要があり、半年から1年以上の準備期間を要することもあります。
➡ 農地転用については「こちらの記事もおすすめ」
④ 都市計画法の制限
多くのスキー場が位置する山間部は市街化調整区域に指定されています。
この区域では原則として建築行為が制限されており、建物を建てる場合は開発許可が必要になります。
3. 事業別|必要な許可と届出の全体像
ここでは、代表的な夏季事業ごとに必要となる許可・届出を整理します。
〈 ケース①:キャンプ場・グランピング施設の開設 〉
最も問い合わせが多い事業ですが、単純に「テントを張るだけ」では済みません。
■ 旅館業法(簡易宿所営業許可)
宿泊料を徴収する場合、旅館業法に基づく簡易宿所営業許可が必要です。
これは、テントのレンタルだけでなく、常設のコテージやグランピング施設も対象となります。
【 2023年12月13日施行の改正旅館業法のポイント 】
• カスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者の宿泊拒否が可能に
• 感染防止対策の充実(特定感染症発生時の協力要請)
• 従業員への研修機会提供の努力義務
• 事業譲渡時の承継手続きの簡素化
➡ 参考:厚生労働省「改正旅館業法」
➡ 宿泊事業については「こちらの記事もおすすめ」
■ 消防法
宿泊施設として運営する場合、以下の設備設置が義務です。
• 自動火災報知設備
• 誘導灯・誘導標識
• 消火器
• 避難器具(階数・規模による)
所轄の消防署に設置計画を提出し、完成後に検査を受ける必要があります。
■ 浄化槽法
トイレやシャワー棟を新設する場合、浄化槽の設置届を自治体(市町村)に提出する必要があります。
また、定期的な保守点検と法定検査の受検義務もあります。
■ 建築基準法
常設の建築物を設置する場合、建築確認申請が必要です。
特に豪雪地帯では、垂直積雪量に基づいた構造計算が求められます。
「夏だけの簡易建物」でも、冬季に撤去しない場合は雪荷重に耐える設計が必要です。
〈 ケース②:マルシェ・音楽フェス・キッチンカー出店 〉
「1日だけのイベントだから簡単」と思いきや、意外と手続きが多いのがこのケースです。
■ 飲食店営業許可(食品衛生法)
キッチンカーがそれぞれ営業許可を持っていても、主催者側も保健所への届出が必要なケースがあります。
• 行事開催届:不特定多数が集まる食品提供イベントの場合
• 臨時営業許可:主催者側が直接調理・販売する場合
また、テント内で調理を行う場合は、簡易な設備であっても営業許可の対象となります。
手洗い設備や衛生的な調理スペースの確保が求められます。
➡ 飲食店営業許可については「こちらの記事もおすすめ」
■ 興行場法
音楽フェスなどで入場料を徴収し、観客席や舞台などの施設を設ける場合、興行場としての許可が必要になるケースがあります。
保健所(環境衛生部門)への相談が必要です。
■ 道路使用許可
スキー場へのアクセス道路で交通整理や誘導員の配置を行う場合、所轄警察署への道路使用許可申請が必要です。
公道上に看板を設置する場合も同様です。
➡ 参考:警察庁「道路使用許可の概要、申請手続等」
■ 火災予防に関する届出
大規模なイベントで火気を使用する場合、消防署への届出(催し開催届出など)が必要になることがあります。
〈 ケース③:アクティビティ施設(ジップライン・四輪バギーなど) 〉
■ 工作物確認申請(建築基準法)
ジップラインの支柱など、一定の高さ(通常6m以上)や規模を超える工作物を設置する場合、建築基準法に基づく工作物確認申請が必要です。
■ 自然公園法の許可
国立・国定公園内でジップラインなどの工作物を設置する場合、環境省や都道府県の許可が必要です。
景観への影響も審査対象となります。
4. 南魚沼・湯沢エリア特有の規制と注意点
① 豪雪地帯特有の建築基準
南魚沼市や湯沢町は特別豪雪地帯に指定されています。
このため、垂直積雪量に基づいた構造計算が建築確認申請で求められます。
夏季のみ営業予定でも、建物を冬季に撤去しない場合、積雪3m以上に耐えられる設計が必要になることもあります。
「簡易的な建物だから大丈夫」という認識は通用しません。
② 農業振興地域(農振)の壁
南魚沼市周辺では、スキー場の下部エリアが農業振興地域に指定されていることがあります。
農振地域内の農地に恒久的施設を建設するには、以下のステップが必要です。
⑴ 農振除外の申請(市町村の農業委員会)
⑵ 農地転用許可の取得(都道府県知事または指定市町村)
このプロセスには最低でも6か月~1年を要するため、逆算したスケジュール管理が不可欠です。
③ 景観計画との調和
南魚沼市では「南魚沼市景観計画」に基づき、一定規模以上の建築物や工作物について景観への配慮が求められます。
事前協議が必要なケースもあるため、市の都市計画課への相談が重要です。
➡ 参考:南魚沼市「南魚沼市景観計画」
④ 自然公園法の厳格運用
上信越高原国立公園などの区域内では、環境省や新潟県の許可が必要です。
審査には景観、生態系への影響、公園計画との整合性などが含まれ、許可取得まで数か月を要することもあります。
5. よくある質問(FAQ)
Q1. スキー場の駐車場で1日だけマルシェを開催したい。許可は必要?
A. はい、必要です。
キッチンカー側が営業許可を持っていても、主催者は保健所への行事開催届を提出する必要があります。
また、規模によっては消防署への催し開催届も必要です。
「1日だけだから簡単」と考えがちですが、食品を扱うイベントでは食中毒リスクへの対策が厳格に求められます。
Q2. 既存のリフト券売り場を改装して宿泊施設にしたい。
A. 用途変更の建築確認申請が必要になる可能性が高いです。
リフト券売り場はもともと「物販店舗」として設計されており、宿泊施設に必要な基準(換気、採光、防火区画、避難設備など)を満たしていないことが多いため、大幅な改修工事が伴います。
また、旅館業法の許可取得、消防設備の設置、浄化槽の増設なども同時に必要になります。
Q3. 手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 手続きの種類により大きく異なります。
• 簡易な届出:数日~2週間程度
• 旅館業許可、飲食店営業許可:1~3か月程度
• 農地転用許可:3~6か月程度
• 農振除外を伴う農地転用:6か月~1年以上
• 林地開発許可、自然公園法の許可:3~6か月程度
雪が降る前に工事を完了させる必要があるため、逆算したスケジュール管理が重要です。
特に農振除外が絡む場合は、前年度から準備を始める必要があります。
Q4. 許可申請にかかる費用はどのくらいですか?
A. 申請そのものに手数料がかかるものと、書類作成費用がかかるものがあります。
• 建築確認申請手数料:数万円~十数万円(規模による)
• 旅館業許可申請手数料:自治体により異なる(1~3万円程度)
• 行政書士への依頼費用:10万円~数十万円(業務内容による)
また、消防設備や浄化槽の設置工事費用は別途数百万円規模になることもあります。
Q5. 無許可で営業した場合のペナルティは?
A. 法令により異なりますが、以下のような罰則があります。
• 旅館業法違反:6か月以下の懲役または100万円以下の罰金
• 農地法違反:3年以下の懲役または300万円以下の罰金
• 建築基準法違反:3年以下の懲役または300万円以下の罰金
また、営業停止命令や原状回復命令が出されることもあり、投資した費用が全て無駄になるリスクがあります。
6. 行政書士ができること・できないこと
施設転用を検討する際、行政書士は心強いパートナーとなりますが、役割分担を理解しておくことが重要です。
【 ✔ 行政書士ができること 】
① 各種許認可の書類作成と申請代行
• 旅館業許可申請
• 飲食店営業許可申請
• 農地転用許可申請
• 林地開発許可申請
• 自然公園法に基づく許可申請
• 道路使用許可申請
• 酒類販売免許申請
• その他、多岐にわたる行政への申請業務
これらをワンストップで対応することで、事業者様の負担を大幅に軽減します。
② 自治体との事前協議・調整
「この土地でこの事業ができるか」を役所の担当窓口(農地課、都市計画課、保健所、消防署など)と交渉し、法的な整理を行います。
複数の部署にまたがる手続きを整理し、どの順番で何を進めればよいかのロードマップを作成します。
③ 法人設立・定款作成
新しく運営会社を立ち上げる場合のサポートも行います。
事業目的の記載方法、出資金の設定など、将来の事業展開を見据えたアドバイスが可能です。
④ 補助金・助成金の申請サポート
観光振興や地域活性化に関する補助金制度の情報提供と申請支援も行います。
【 ✖ 行政書士ができないこと 】
× 登記申請(不動産・法人)
法人設立後の登記申請や、不動産の所有権移転登記などは司法書士の業務です。
× 設計図面の作成
建築確認申請に必要な詳細な設計図は建築士の業務です。
× 税務申告・会計業務
確定申告や税金の相談は税理士の業務です。
× 労務管理
従業員の社会保険手続きや就業規則の作成は社会保険労務士の業務です。
7. 今後の課題と解決策
【課題1】 制度の「縦割り」による事業者負担
一つの事業を始めるのに、農地課、林務課、都市計画課、保健所、警察署、消防署と、回るべき窓口が非常に多いことが事業者の大きな負担となっています。
それぞれの部署で求められる書類や審査基準が異なり、「A部署の許可を取ったら、B部署で別の条件を提示された」といった事態も珍しくありません。
【解決策】 行政書士をプロジェクトマネージャーとして活用
自治体によっては「観光振興窓口」を設けるなど一本化の動きもありますが、まだ一部に留まっています。
民間レベルで最も現実的な解決策は、行政書士をプロジェクトマネージャーとして起用することです。
行政書士が全体の法的整合性を一括管理することで、
• 「あの許可が足りなかった」という致命的ミスを防ぐ
• 複数部署への同時並行申請でスケジュールを短縮
• 窓口が一本化され、事業者様の負担が軽減
といったメリットが得られます。
【課題2】 規制緩和と自然保護のバランス
地域活性化のために規制を緩和してほしいという声がある一方、自然環境や景観を守りたいという声もあります。
このバランスをどう取るかは、今後も議論が続くテーマです。
【解決策】 早期の事前協議と地域との対話
計画段階から自治体や地域住民と対話を重ね、「どのような形なら受け入れられるか」を探ることが重要です。
行政書士は、そうした調整役としての役割も果たします。
8. まとめ:計画段階でのリーガルチェックが成否を分ける
スキー場のグリーンシーズン活用は、地域の雇用を守り、地方創生に直結する素晴らしい取り組みです。
しかし、自然豊かな場所だからこそ、法規制もまた厳格に運用されています。
「面倒な手続きを後回しにした結果、イベント直前に中止勧告を受けた」
「多額の投資をしたのに、旅館業の許可が下りない構造だった」
このような悲劇を避けるためには、計画の初期段階でのリーガルチェックが欠かせません。
特に南魚沼・湯沢エリアでは、
• 豪雪地帯特有の建築基準
• 農業振興地域の規制
• 景観条例との調和
• 自然公園法の厳格運用
といった地域特有の規制があり、これらを熟知した専門家のサポートが成功の鍵となります。
「この場所で、こんなことがしたい」
その想いを、確実な「形」にするための第一歩を、行政書士と一緒に踏み出してみませんか?
行政書士は、皆様の挑戦を全力でサポートいたします。
出典・参考
• 厚生労働省「改正旅館業法」
• 農林水産省「農地転用許可制度について」
• 環境省「自然公園法に基づく申請・届出」
• 警察庁「道路使用許可の概要、申請手続等」
• 南魚沼市「南魚沼市景観計画」
• 新潟県観光協会「スキーゲレンデ グリーンシーズン」
• 政府広報オンライン「改正旅館業法のポイント」
≪ 南魚沼で行政書士をお探しの方へ ≫
当事務所では、各種許認可申請、終活・相続手続きなど、地域に寄り添ったサポートを行っております。
ご相談の内容により、他の専門家(司法書士・税理士など)との連携や、ご紹介をさせていただきます。
まずはお気軽にご相談ください。
当事務所の詳細はホームページをご覧ください。
「にわの行政書士事務所」のホームページ
※本記事は令和8年2月時点に入手可能な公的情報をもとにしています。年度によって制度内容が変更されている可能性があります。必ず最新の法改正情報などでご確認ください。