大切な家族であるペット。
毎日を共に過ごす中で、「もし自分に万が一のことがあったら、この子はどうなるのだろう?」と不安を感じる飼い主様は少なくありません。
特に、身寄りのない高齢の飼い主様や、ご自身の健康に不安がある方は、愛するペットの将来について、しっかりと生前の対策(ペット終活)を講じる必要があります。
日本の法律において、残念ながらペットは人や法人と同じように財産を相続する「相続人」にはなれません。
しかし、飼い主様の願いを叶え、ペットが安心して生涯を送れるようにするための具体的な法的手段は確立されています。
この記事では、あなたの愛するペットの未来を守るための具体的な方法と、行政書士がどのようにサポートできるかを、最新かつ正確な情報に基づいて分かりやすく解説します。
1.法律上の立ち位置を知る:ペットは「家族」でも「動産」
感情的には かけがえのない家族ですが、日本の民法上、ペットは家財や自動車などと同じ「動産(どうさん)」、つまり財産の一部として扱われます。
この法的な位置づけから、以下の重要なルールが導かれます。
• ペット自身は財産を相続できない
遺言書に「愛犬○○に1,000万円を相続させる」と書いても、その記述は法的には無効となります。
相続や遺贈の対象となるのは「人」や「法人」に限られるからです。
• ペットは遺産分割の対象となる
飼い主様が亡くなると、ペットを含むすべての財産は相続人全員の共有状態になります。
遺言書がない場合、誰がペットを引き取るかは、相続人全員による遺産分割協議で決定する必要があります。
遺言がない場合、飼い主様の「この子をこの人に託したい」という想いが実現されない可能性があるため、生前の準備が非常に重要になるのです。
2.高齢の飼い主様や身寄りがない方の「ペットの未来」問題
特に、身寄りがいない方や、ご自身の健康に不安がある高齢の飼い主様にとって、ペットの将来は切実な問題です。
飼い主様が入院、施設入居、または万が一亡くなった場合、事前に引き取り手が明確になっていなければ、ペットは行き場を失い、最悪の場合、保護施設などに預けられる事態にもなりかねません。
このような事態を防ぎ、ペットが飼い主様の望む環境で生涯を全うできるようにするために、「ペット終活」として次の3つの具体的な対策を検討しましょう。
3.愛するペットの安心を確保する3つの具体的な法的手続き
ペットの飼育を確実にするための方法は、主に以下の3つがあります。
これらの方法を単独で、あるいは組み合わせて利用します。
① 遺言による「負担付遺贈(ふたんつきいぞう)」
これは、遺言書を作成し、「ペットの世話を引き受けること」を条件(負担)として、その人に財産(金銭や不動産など)を遺す方法です。
• 仕組み
遺言書に「長男○○に金500万円を遺贈する。ただし、愛猫△△を終生責任をもって飼育すること。」などと記載します。
飼育を引き受ける人(受遺者)は、財産を受け取る代わりに、その条件(ペットの飼育)を履行する義務を負います。
• メリット:比較的シンプルで費用も抑えられます。
• デメリット・注意点
受遺者が遺贈を放棄することも可能です。そのため、遺言書作成前に引き取りを依頼する人に必ず確認を取り、同意を得ておくことが大切です。
飼育を怠った場合の罰則規定などを設けることは難しいです。
② 契約による「負担付死因贈与契約」
飼い主様が亡くなったときに効力が発生する贈与契約を、引き取り手となる人と生前に締結する方法です。
• 仕組み
「飼い主が死亡したら、受贈者(引き取り手)に金500万円を贈与する。
その代わりに、受贈者はペットを終生飼育する。」という内容の契約書を、飼い主様と引き取り手の間で交わします。
• メリット:契約であるため、遺言による「負担付遺贈」よりも確実性が高まります。
• デメリット:あくまで贈与であり、財産の使途を細かく縛ることは困難です。
③ 確実性と継続性に優れた「ペット信託」
最も確実で安心できる方法として注目されているのが、信託(しんたく)の仕組みを利用した「ペット信託」です。
• 仕組み
(ⅰ) 飼い主様(委託者)が、ペットの飼育費用として必要な財産を、信頼できる受託者(じゅたくしゃ)に託します。
(ⅱ) 受託者は、飼い主様の死亡後、その財産をペットの飼育という目的に限定して管理・運用します。
(ⅲ) ペットの世話をする人(飼育者)は、その飼育費用を信託財産から受け取ります。
(ⅳ) 第三者である信託監督人を選任することで、受託者が適切に財産を管理し、ペットの飼育が行われているかを監視することも可能です。
• メリット
財産を「ペットの飼育」という目的のために拘束できるため、他の用途に流用される心配がありません。
受託者を法人や専門家にすることで、継続性と確実性が担保されます。
• デメリット:契約書の作成や財産管理の費用など、他の方法に比べて費用がかかる傾向があります。
4.専門家を味方につける!行政書士がサポートできること・できないこと
複雑で専門的な知識が必要な「ペット終活」を安心して進めるためには、法律の専門家である行政書士のサポートが欠かせません。
✅ 行政書士ができること
行政書士は、法律に基づき、あなたの想いを法的に有効な文書として作成し、制度を設計するプロフェッショナルです。
① 遺言書(公正証書・自筆証書)の作成支援
公正証書遺言:公証役場との事前調整や、法的に有効な文案の作成をサポートします。
自筆証書遺言:ご自身で作成する際の形式(全文自書など)や内容のチェック、法的な不備がないよう文案作成をサポートします。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用に関する助言も行います。
② ペット信託契約書の作成
飼い主様の意向(食事、通院、緊急対応、葬儀など)を詳細にヒアリングし、ペットの生涯に合わせたオーダーメイドの信託契約書を作成します。
③ 死因贈与契約書、死後事務委任契約書の作成
飼育を条件とする負担付死因贈与契約書や、飼い主様の死後の事務(葬儀、行政手続きなど)を委任する死後事務委任契約書の作成を通じて、万全の体制を構築します。
④ 関係者との調整サポート
引き取り手や信託の受託者・監督人となる方との間の意思確認、契約内容の調整などを円滑に進めます。
❌ 行政書士ができないこと
行政書士の業務範囲は法律で定められています。以下の業務は、他の専門家が行う必要があります。
• 信託財産の管理
受託者として信託財産(金銭)を運用・管理する業務そのものは、行政書士の業務ではありません。
通常、財産管理は、飼い主様が指定した受託者(個人・法人)が行います。
• 訴訟・紛争の代理
ペットの引き取りをめぐって相続人間で争いになった場合など、法的な紛争に関する交渉や訴訟代理は、弁護士の業務となります。
• 登記業務
遺贈する財産に不動産が含まれる場合の相続登記や所有権移転登記は、司法書士の業務となります。
5.まとめ:今日から始める「安心」の準備
愛するペットとの別れは考えたくありませんが、万が一に備えることが、飼い主様としての最後の責任と愛情の証です。
特に身寄りのない方や高齢の飼い主様にとって、これらの準備は、ご自身の安心感にも直結します。
遺言やペット信託は、ペットの「飼い主」という財産的な側面だけでなく、ペットへの深い愛情を法的な形で具現化するものです。
「何から始めればいいか分からない」「うちの子の場合はどう設計すればいい?」といった疑問をお持ちでしたら、ぜひお近くの行政書士までお気軽にご相談ください。
あなたの愛するペットが、生涯にわたって幸せに暮らせるよう、最適な「ペット終活」をサポートいたします。
💡出典・参考情報
• e-GOV法令検索「民法(第887条:法定相続人の規定、第964条:遺言による遺贈の規定など)」
• e-GOV法令検索「信託法(信託制度全般の規定、ペット信託の法的根拠)」
• 法務省:「自筆証書遺言書保管制度」
• 日本公証人連合会:「遺言」
• 日本行政書士会連合会:「遺言・相続」
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※本記事は令和7年12月時点に入手可能な情報をもとにしています。年度によって制度内容が変更されている可能性があります。必ず最新の法改正情報などでご確認ください。