はじめに
温泉を活用した事業を始めたいとお考えの事業者の方へ。
旅館やホテル、日帰り温泉施設、足湯などの温泉事業を開業するには、温泉法や旅館業法など、複数の法令に基づく許可申請が必要です。
また、温泉を利用する権利である「温泉利用権」についても、正しい理解が欠かせません。
本記事では、温泉事業の開業に必要な手続き、温泉利用権の法的性質、行政書士ができる業務範囲について、南魚沼地域の事例も交えながら分かりやすく解説します。
1.温泉法とはー温泉事業に欠かせない基礎知識
① 温泉の定義
温泉法第2条第1項によると、温泉とは「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、別表に掲げる温度又は物質を有するもの」と定義されています。
具体的には、地中からゆう出する際の温度が25℃以上であれば温泉となります。
また、25℃未満であっても、法定の19種類の物質のうちいずれか1つ以上の条件を満たせば温泉と認められます。
② 温泉法の目的
温泉法は、温泉を保護し、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止し、及び温泉の利用の適正を図り、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的としています。
(参考:環境省「温泉法の概要」)
この法律に基づき、温泉の掘削、採取、利用には都道府県知事または保健所設置市区長の許可が必要となります。
2.温泉事業に必要な許可申請の流れ
温泉を活用した事業を始めるには、以下のような段階的な許可申請が必要です。
① 温泉掘削許可申請
温泉をゆう出させる目的で土地を掘削する場合、温泉法第3条に基づく都道府県知事の許可が必要です。
申請にあたっては、温泉のゆう出量・温度・成分に影響を及ぼすと認める場合や、掘削の方法が可燃性天然ガスによる災害防止に関する技術基準に適合しない場合などは不許可となります。
新潟県では、温泉の許可(掘削、増掘、動力装置設置)に際して新潟県環境審議会温泉部会の意見を聴くこととしており、年3回(7月、11月、3月)の開催に合わせて申請を受け付けています。
申請予定の方は、4月、8月、12月中に申請書を提出する必要があります。
(参考:新潟県「温泉法に関する許可申請等」)
② 温泉動力装置許可申請
掘削した温泉を汲み上げるために動力を装置する場合、温泉法第11条による許可が必要です。
例として神奈川県では、当該源泉から200m以内に既存源泉がある場合、揚湯試験実施要領に基づいた調査により、既存源泉に及ぼす影響の有無を調べる必要があると規定しています。
(参考:神奈川県「温泉動力装置許可申請」)
③ 温泉採取許可申請または可燃性天然ガス濃度確認申請
温泉を採取する際は、温泉法第14条の2による温泉採取許可が必要です。
ただし、可燃性天然ガスの濃度が基準を超えない場合は、許可に代えて濃度確認申請(温泉法第14条の5)で対応できます。
この制度は、温泉中に含まれる可燃性天然ガスによる事故を防ぐ目的で設けられています。
④ 温泉利用許可申請
温泉を公共の浴用または飲用に供しようとする場合は、温泉法第15条に基づく都道府県知事又は保健所設置市区長の許可が必要です。
この許可は、旅館の浴場、公衆浴場はもちろん、タンクローリー等を利用して不特定多数の者に温泉を配湯・販売する場合や、短期イベントを含め足湯等に温泉を利用する場合にも必要となります。
⑤ 温泉成分等掲示届
利用許可を得た施設では、温泉の成分・禁忌症等の掲示が必要です。
掲示内容は、登録分析機関の行う温泉成分分析の結果に基づくことが必要で、10年に一度の定期的な分析が義務付けられています。
平成19年10月20日からの温泉法改正により、衛生上の観点や温泉利用者の温泉への信頼の確保のため、温泉成分の定期的な分析と掲示内容の更新が義務づけられました。
3.温泉利用権の種類と注意点
① 温泉利用権とは
温泉利用権とは、温泉を利用する権利のことで、温泉付きマンションや温泉地の別荘、温泉権付き有料老人ホームなどで温泉を利用する際に重要な権利です。
温泉に関する権利には、以下のような種類があります。
• 温泉源泉権(湯口権): 温泉の湧いている土地の所有権または温泉を汲み上げる権利
• 引湯権: 温泉を引き込む権利
• 分湯権: 引湯権を持つ人からお湯を分けてもらう権利
温泉地の別荘や温泉権付きマンションでは、分湯権が多く見られます。
② 温泉権取得時の注意点
温泉権を取得する際には、以下の点に注意が必要です。
⑴ 権利の内容の確認: 永久使用権か、期限付きか
⑵ 費用の確認: 権利金、毎月の使用料、更新料、名義書換料など
⑶ 配管の状況: 実際に温泉を引き込めるか、配管工事が必要か
⑷ 有効な対抗要件: 物権として認められるための公示方法が備わっているか
契約書の内容をよく確認し、不安な点については行政書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
4.温泉事業の具体例—南魚沼地域の温泉活用
【 南魚沼地域の温泉資源 】
南魚沼市は新潟県内でも有数の温泉地域であり、多数の温泉施設が営業しています。(出典:南魚沼市観光協会)
代表的な温泉としては、六日町温泉、石打温泉、上野鉱泉などがあり、旅館・ホテル業、日帰り温泉施設、足湯など、様々な形態で温泉が活用されています。
【 温泉を活用した事業形態 】
温泉を活用した事業には、以下のような形態があります。
① 旅館・ホテル営業
旅館業法に基づく営業許可が必要です。
旅館は和風の構造が特徴で、5室以上の客室があり、床面積が7㎡以上であることが規定されています。
ホテルは洋風の建築様式で、10室以上の客室があり、床面積が9㎡以上であることが定められています。
温泉を利用する場合は、旅館業許可に加えて温泉利用許可が必要です。
また、施設内でレストランを設ける場合は飲食店営業許可、大浴場を設ける場合は公衆浴場許可が必要になります。
② 公衆浴場営業
温泉を利用した日帰り入浴施設、スーパー銭湯、健康ランド、サウナなどは公衆浴場法に基づく許可が必要です。
公衆浴場は、いわゆる「銭湯」である普通公衆浴場と、それ以外の特殊公衆浴場に分類されます。
温泉を利用する場合、適正配置基準の例外が認められることがあります。
③ 足湯・手湯施設
短期イベントを含む足湯や手湯であっても、温泉を公共の浴用に供する場合は温泉利用許可が必要です。
公衆浴場業や旅館業の許可が不要であっても、温泉利用許可は必要となる場合があります。
④ 温泉配湯・販売事業
タンクローリー等を利用して不特定多数の者に温泉を配湯・販売する場合も、温泉利用許可が必要です。
5.旅館業許可申請の流れと要件
① 旅館業許可申請の基本的な流れ
⑴ 事前相談: 保健所や保健福祉事務所、土木事務所、消防本部などに事前相談
⑵ 証明願の提出: 営業予定施設から100m・200mの区域内に学校や児童福祉施設がある場合
⑶ 標識の設置: 申請前に14日以上掲示
⑷ 許可申請書の提出: 必要書類と手数料(基本的に22,000円程度)を保健所に提出
⑸ 現地調査・検査: 保健所調査員による施設の検査
⑹ 消防法令適合通知書の取得: 消防署による検査
⑺ 許可書の交付: 営業開始可能
② 旅館業許可の要件
【 構造設備基準 】
• 客室面積: 一人当たりの床面積が基準を満たすこと(和室3.3㎡以上、洋室4.5㎡以上など)
• 換気設備: 適切な換気設備の設置
• 採光・照明: 十分な採光と照明
• 衛生設備: 入浴設備、洗面、便所、手洗い設備が定員に応じて必要数設置されていること
• 玄関帳場: 宿泊者との面接に適する設備(自治体により緩和あり)
【 人的要件 】
施設管理者を置く必要があります。
管理者には、施設の衛生管理やトラブル対応など、日常の運営を適切に行う能力が求められます。
【 立地要件 】
施設の設置場所が、学校や児童福祉施設などの周囲100mの区域内にあり、清純な施設環境が著しく害される恐れのある場合、許可は与えられません。
ただし、自治体によっては事前相談等で認められる場合があります。
6.新潟県における温泉利用許可申請の流れ
新潟県で温泉利用許可を申請する場合の具体的な流れは以下のとおりです。
【 ステップ1:事前相談 】
予定平面図、配管図、地図などを持参し、管轄の保健所にて事前相談を行います。
施設の構造、配管設備、衛生設備などについて基準適合性を確認します。
【 ステップ2:温泉成分分析の実施 】
登録分析機関に依頼し、温泉成分分析を実施します。
この分析結果は温泉掲示内容届出書に必要となります。
【 ステップ3:申請書類の準備と提出 】
温泉利用許可申請書に以下の書類を添えて提出します。
• 温泉利用許可申請書
• 温泉掲示内容届出書(温泉成分分析結果に基づく)
• 施設の配置図、平面図
• 配管図
• その他必要書類
【 ステップ4:現地調査 】
保健所職員による現地調査が実施されます。
申請内容と実際の施設が合致しているか、利用源泉、浴室・配管設備等の構造上及び衛生上の適否が調査されます。
【ステップ5:許可書の交付 】
審査の結果、基準を満たしていれば温泉利用許可書と温泉成分等の掲示事項の受理及び決定通知書が交付されます。
【 ステップ6:営業開始 】
許可書の交付を受けた後、営業を開始できます。
施設の見やすい場所に温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意を掲示しなければなりません。
【 重要な注意点 】
• 温泉成分分析は10年に一度定期的に行い、掲示内容を更新する義務があります。
• 利用源泉の変更、施設の改修などがある場合は、別途届出や許可が必要です。
• 新潟県では温泉掘削・動力装置の許可に新潟県環境審議会温泉部会(年3回:7月、11月、3月開催)の意見聴取が必要ですが、温泉利用許可については審議会の対象外です。
7.行政書士ができること・できないこと
〈 ✔ 行政書士が対応できる業務 〉
温泉事業の開業に関して、行政書士は以下の業務を行うことができます。
① 各種許可申請の代理申請
• 温泉掘削許可申請
• 温泉動力装置許可申請
• 温泉採取許可申請・可燃性天然ガス濃度確認申請
• 温泉利用許可申請
• 旅館業営業許可申請
• 飲食店営業許可申請
• 公衆浴場営業許可申請
• 深夜酒類提供飲食店営業届出
これらの申請書類の作成と提出を、行政書士法に基づき有償で代理することができます。
② 事前調査と相談業務
• 建築基準法上の違反がないかの確認
• 都市計画法上の用途制限への適合性確認
• 関係法令の確認
• 申請に必要な書類の準備サポート
• 行政機関との事前協議への同行
③ 開業計画段階からのサポート
温泉事業の開業には、計画段階から専門家に相談することで防げる失敗が多くあります。
例えば、水回りの変更で新規許可扱いになる、厨房扉の仕様違いで工事やり直しになるといった事例が報告されています。
行政書士は、計画初期から必要な許認可を把握し、ハード・ソフト両面からサポートすることで、スムーズな開業につなげることができます。
〈 ✖ 行政書士ができないこと 〉
① 訴訟代理業務
許可申請が不許可になった場合や、営業許可を取り消された場合の不服申立の代理人としての業務は、特定行政書士のみが対応できます。一般の行政書士は対応できません。
また、訴訟に発展した場合の裁判所での代理業務は弁護士の独占業務となります。
② 法律相談業務(一部制限)
温泉利用権に関する法律問題、紛争解決などは、弁護士の業務範囲となります。
行政書士は、許可申請に関する手続き面での相談は可能ですが、法的権利関係の詳細な判断や紛争解決の代理は行えません。
③ 登記業務
温泉権を登記する場合(地役権としての登記など)は、司法書士の業務範囲となります。
④ 税務相談・会計業務
温泉事業の経営に関する税務相談や会計業務は、税理士・公認会計士の業務範囲となります。
8.よくある質問(FAQ)
Q1. 温泉掘削許可はどのくらいの期間で取得できますか?
A. 都道府県により異なりますが、審議会の開催に合わせた申請受付期間が設定されている場合が多くあります。
新潟県の例では、年3回(7月、11月、3月)の審議会開催に合わせて、申請は4月、8月、12月中に行う必要があります。
申請から許可まで数ヶ月かかることが一般的ですので、余裕をもったスケジュールを組むことが重要です。
Q2. 既存の建物を温泉旅館にする場合、どのような手続きが必要ですか?
A. まず、建物が旅館業の構造設備基準を満たしているかを確認する必要があります。
特に重要なのは、建築確認済証および検査済証があるかどうかです。
これらの書類がない場合、基本的に旅館業の許可を受けることができません。
また、用途地域の制限により旅館業が営めない地域もあります。
事前に保健所、土木事務所、消防署などで相談し、必要な改修工事を行った上で、旅館業許可申請と温泉利用許可申請を行います。
Q3. 温泉権付き物件を購入する際の注意点は?
A. 以下の点を必ず確認してください。
• 権利の内容: 永久使用権か、期限付きか
• 費用: 権利金、毎月の使用料、更新料、名義書換料
• 配管の状況: 実際に温泉を引き込めるか
• 土地所有者との契約内容: 物権か債権か、対抗要件は備わっているか
契約前に、行政書士や弁護士に契約書をチェックしてもらうことを強くお勧めします。
Q4. 足湯だけの施設でも許可は必要ですか?
A. はい、必要です。
短期イベントであっても、温泉を公共の浴用に供する場合は温泉利用許可が必要です。
事前に管轄の保健所に相談してください。
Q5. 温泉成分の分析は自分で行えますか?
A. いいえ、登録分析機関に依頼する必要があります。
環境省のホームページで全国の登録分析機関一覧を確認できます。
分析は10年に一度、定期的に行う義務があります。
Q6. 旅館業許可と温泉利用許可は同時に申請できますか?
A. 申請窓口が同じ保健所である場合、同時期に準備を進めることは可能ですが、それぞれ別の許可として申請する必要があります。
温泉利用許可申請の際には、温泉成分等掲示届も同時に届け出る必要があります。
Q7. 行政書士に依頼した場合の費用はどのくらいですか?
A. 業務内容や事務所により異なりますが、一般的に以下のような費用構成となります。
• 行政書士報酬: 数万円〜数十万円(業務内容による)
• 申請手数料: 都道府県に支払う実費(温泉掘削許可、旅館業許可など)
• その他実費: 書類取得費用、交通費など
複数の許可申請をまとめて依頼する場合、一括サポートプランを提供している事務所もあります。
9.まとめー温泉事業開業は専門家への相談を
温泉を活用した事業を始めるには、温泉法、旅館業法、公衆浴場法、消防法、建築基準法など、多くの法令に関する知識と、複数の許可申請手続きが必要です。
行政書士は、これらの許可申請を代理で行うことができる法律の専門家です。
計画段階から相談することで、以下のメリットがあります。
• 法令違反のリスク回避: 後から発覚する違反を事前に防ぐ
• 手続きの効率化: 複数の申請を適切なスケジュールで進行
• 開業時期の遵守: 工事の遅延があっても開業予定日に間に合わせる調整
• 本業への専念: 許認可手続きは専門家に任せ、経営準備に集中
また、温泉利用権に関する契約内容の確認や、権利の対抗要件の整備についても、行政書士や弁護士などの専門家に相談することで、将来のトラブルを防ぐことができます。
南魚沼地域をはじめ、全国の温泉地域で温泉事業の開業をお考えの方は、ぜひ行政書士などの専門家にご相談ください。
参考・出典
• 環境省「温泉法の概要」
• 新潟県「温泉法に関する許可申請等」
• 南魚沼市観光協会「温泉」
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